第16回戦 逃亡犯 - 深田萌絵 本人公式

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第16回戦 逃亡犯



「エリちゃん!」
月曜朝9時。
深田はオフィスに駆け込むなり、エリを呼んだ。呼ばなくても、エリとバイトのこけししかいないのだが。
「萌絵さん、どうしたんですか?」
「マイケルが裁判の日から、全く連絡が取れない」
「エエ!!本当ですか?」
「台湾調査局には捕まってないはずなんだけど…」
とは言うものの、深田は不安だった。
「そうだ、マイケルさんの部屋の鍵を預かってますから、一緒に部屋に行ってみましょうよ。何か分かるかもしれません」
エリはそう言って、引き出しから鍵を出した。

二人はガチャガチャとマイケルの部屋に押しかけたが、部屋はもぬけの殻だった。
潔癖なマイケルらしい、シンプルな部屋は整然と整えられて髪の毛一本落ちていない。マイケルが潔癖なのは、侵入者が訪れば一目瞭然にする為だ。
「マイケルさーん!」
「マイケル!」
二人は声をあげる。
寝室にもリビングにもマイケルの姿はなく、深田は書斎に入った。
書棚には幾つものファイルが並んでいた。深田の書棚と違って本は一冊もない。マイケルは本を読まない。本を読まないのに、誰から何を聞かれても殆ど全ての質問に応えることができる。
「なんだよ、このファイル」
本も読まない書類も作らないマイケルがファイルなんて、と思って深田は好奇心でファイルを開いた。
ペラリとカイザーエレクトロニクス社の社長から陳水扁に当てられた手紙が出てきた。
『親愛なる陳水扁総統。ジョイントストライクファイター(統合打撃戦闘機)の開発を米国政府から受けて以来、私達は中国スパイや台湾マフィアからの執拗な攻撃にさらされ、特に王源慈氏の会社は危険な状態にあります。総統におかれましては、台湾国内における王氏の活動をサポートして頂きたく存じ上げます。
カイザーエレクトロニクス社、社長より』
「なんだ…これ…」
カイザーエレクトロニクス社といえば、ロッキードマーティン社の下請けでマイケルと共同で開発を行なっていた会社だ。
その会社の社長がわざわざ台湾総統に手紙を書くってどういうことだ。そして、何故その手紙の写しがここにあるんだ。

http://www.prnewswire.com/news-releases/elbit-systems-and-kaiser-electronics-selected-for-lockheed-martin-joint-strike-fighter-73910952.html

深田は不安に駆られてファイルのページを捲る。そこにはFBI被害者保護プログラムの証明書とステイトメントと書かれた書類が挟まっていた。
『-ステイトメント- 私、王源慈は、FBI被害者保護プログラムにより、氏名をマイケル・コーに変更し、米国市民になることをここに宣誓します。マイケル・コー』
ミミズがのたうったような汚いサインは紛れもなくマイケルの字だ。

「カイザーエレクトロニクスの社長から、陳水扁総統への手紙、FBI被害者保護プログラム、アイデンティティー変更の宣誓書、マイケルの妄想みたいな話はもしかして本当なの…」
深田は更にページを捲った。

旧漢字だらけの書類に台湾検察と冠されたものが見られた。深田が習った中国語は文化大革命後の簡体字で、香港・台湾で利用されている複雑字を読むことは難しいが、いくつかの漢字は日本と共通だ。

『告発者、焦祐鈞』名前に見覚えがあった。告発者は、刑事告発を行なった人間のことだが台湾語でも同じ意味だろう。
「この名前は…」
間違いなく、青幇元首領焦庭標の息子だ。
マイケルがジョイントストライクファイターの設計を行なっていた時に馬英九と組んでその設計を盗んだ張本人。
「いやいや、同姓同名かもしれないし…」
スマホで焦の名前を検索すると、百度の辞典に彼の名前が出てきた。
『焦祐鈞 台湾電電公会理事長、華邦電子社長』
華邦電子、英名Winbondと言えば、台湾最大のチップメーカーだ。そこの社長が、マイケルを刑事告発している。

http://wapbaike.baidu.com/view/3507741.htm?adapt=1&

告発状の次のページには、台湾検察の書類が挟まっていた。
『王源慈  逃亡犯』
マイケルが台湾から米国へ亡命した直後の日付で、台湾検察から逃亡犯と名指しされた書類が出てきた。
「マイケル、政治思想の違いで亡命しただけじゃないのか…?」
よりによって、告発者がWINBONDの社長だなんて、そんなバカな。

深田は血の気が引くのを感じた。
金融の世界では信用が命だ。
深田萌絵の名前で、株主から出資を受けてこの会社を立ち上げた。この会社の為に三年半で費した資金は、既に億を超えた。
その企業価値の核となる技術を開発している人間が台湾で犯罪者で逃亡犯、その名はFBIの書類でマイケルの過去の名前であることが証明されている。

「萌絵さん、やっぱりマイケルさんの行き先の手掛かり無いですね」
エリがドアの向こうから声を掛ける。
「萌絵さん?」
深田はエリに応えることができなかった。
仮に、マイケルが本当に犯罪者ならば、自分の立場は共謀犯だ。軽い罪なら台湾調査局が日本まで彼を追ってくるはずか無いし、台湾最大のチップメーカーの社長が告発するはずもない。
まずい。マイケルの技術が日本を救える技術だと信じ、その開発の為に自分の資産だけでなく、他人資本まで入れてしまったので深田の責任は重い。それだけでなく、数少ない女友達のエリまで巻き込んでいる。
「萌絵さん?」
彼女の声が響く。
「エリちゃん…」
「どうかしたんですか」
キョトンと大きな瞳でこちらを見つめるエリに深田は応えることができなかった。
もしかしたら、自分は取り返しの付かないことをしてしまったかもしれない。エリに話せば彼女にまで責任が発生する。
「エリちゃん、とりあえずオフィスに戻ろう」

深田は、眩暈がする思いで几帳面に整理された部屋を後にした。

続く
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